課題研究成果報告
近年、週刊誌等の一部メディアにおいて処方薬の「危険性」に関する特集が頻繁に組まれている。薬剤の副作用を注意喚起することは安全な薬物療法の提供のために重要である一方、偏った情報提供は患者のノンコンプライアンスのみならず、医療不信を招く恐れがある。実際、申請者も過去に北海道大学病院において病棟薬剤業務に従事していた際、このような週刊誌を読んだ患者から「医師から危険な薬を飲まされている。飲みたくない。」と相談を受け、対応に苦慮した経験がある。これらの報道はセンセーショナルである一方、患者に情報提供すべき「副作用の発現割合」や「薬剤服用によるメリット」などの基本的事項が欠落している場合が多い。週刊誌等の報道の「問題点」を具体的に記述した資粒の作成は、偏った報道により惹起された患者の不安を医療者が取り除くために利活用可能な武器になり得る。しかしながら、これら処方薬の「危険性」に関する報道の問題点を体系的に評価した学術記事は皆無である。加えて、実際にこれらの報道の反響を医療従事者がどの程度受け、どのような対応をしたのかは明らかになっていない。
【課題研究の目的(期待される成果)】
本研究では、はじめに情報の適切性を評価するためのチェックリストを既出の学術輪文やガイドラインに基づき作成する。次に、週刊誌等の雑誌媒体に掲載された「危ないクスリ」に関する情報を整理し、作成したチェックリストに基づき、その適切性を評価する。週刊誌等の情報が「偏っている」ことは医療者にとって常識と言っても過言ではない。しかしながら、その常識を客銀的に証明したエビデンスがないことは、解決すべき課題である。本研究で得られる知見は、医療者が週刊誌等の情報の不適切性を患者に説明する際に利活用可能であることが期待される。
さらに、薬局薬剤師にアンケートを実施し、これらの報道に起因した相談を患者から受けた経験の有無とその内容、その際に取った具体的対応を調査し、このような患者に対して薬剤師がとるべき適切な情報提供のあり方を模索する。アンケートの対象は薬局薬剤師のみと限定的ではあるものの、メディアからの偏った情報の影響度を、患者や他の医療者も含めて広く調査していくための第一歩となり得る。
【キーワード】
週刊誌、偏向報道、副作用、ノンコンプライアンス
【目的】
週刊誌に掲載された「危ないクスリ」に関する情報の適切性を評価し、偏った報道により惹起された患者の不安を取り除くためのエビデンスを創出する。加えて、これら報道の反響と薬局薬剤師の対応の実態を解明する。
【方法】
公式ホームページでバックナンバーの目次を公開している週刊誌10 誌から、処方薬の「危険性」に関する記事を抽出した。対象となった医薬品とその薬効分類に関する情報を集計・整理した。抽出された記事の適切性を、2 名の評価者が独立して評価した。評価指標は改変したメディアドクター指標とし、9 つの評価項目について満足か不満足、または評価対象外かを判定した。
続いて、薬局薬剤師を対象に、メディアによる「くすりの危険性」に関する報道に起因する相談応需とその対応の実態に関するアンケートを実施した。
【結果】
合計1,064 の記事をスクリーニングした結果、19 の記事が評価対象として抽出された。計179種類の薬剤(薬効分類で34 種類)において、その危険性について言及されていた。最も頻繁に取り上げられた薬効分類は催眠・鎮静薬であり、最も掲載回数が多かったのはトリアゾラムであった。19 の記事のうち、11 本は2 名の評価者がともに満足(◯) と判定した評価項目が0 であった。不満足(×) と判定した評価項目の数は広く分布したが、19 の記事のうち、11 本で2 名の評価
者がともに不満足(×) と判定した評価項目の数は5 以上であった。
アンケートの対象となった698 名のうち545 名から回答を得られ、現在集計作業中である。
【今後の予定】
多岐に渡る薬剤が週刊誌による「危険性」に関する報道の対象となっていることが明らかとなった。加えて、それらの記事が科学的妥当性の観点から不十分・不完全であり、改善すべき点が多い可能性を見出した。今後はアンケートの集計により、メディア報道による薬局薬剤師への患者からの反響とその対応の実態を明らかにしていく。